仙台地方裁判所 昭和25年(行)35号 判決
原告 小林幸雄
被告 仙台市長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告が原告に対する昭和二十五年六月二十四日附通知により為した原告所有の仙台市東三番丁三十三番地の一宅地三百二十五坪八合五勺に対する換地予定地の指定処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告は仙台市東三番丁三十三番地の一宅地三百二十五坪八合五勺を所有するものであるが被告は仙台市特別都市計画による土地区画整理を施行するため昭和二十五年六月二十四日附を以て原告に対し右宅地に対する換地予定地として従前の同丁三十一番地、三十二番地の一、三十三番地の一部第十五ブロツク二十八号二十九号(別紙図面表示(3)の部分)を指定する旨通知した。
然しながら右原告所有地附近には別紙図面表示の如くその北隣に訴外青木清所有の宅地、更にその北側に電気磁気研究所所有宅地が存し、又原告所有地の南隣には訴外後藤庄之助所有の宅地、更にその南側に訴外磯目茂所有地が存在するところ、被告は原告以外の者に対しては概ね現地換地が若くは従前の土地の位置に準じて換地予定地を指定したにも拘らず、ひとり原告に対しては訴外後藤庄之助所有地との前記の配列を逆転し、然も従前の土地が東西に長い矩形を為していたのに右換地予定地は鍵型であつて著しく価値を低下するものである。
被告は原告所有の従前の土地の位置、形状及び他の所有者に対し概ね矩形に換地予定地を指定した事実とによれば、須く別紙図面表示(黄色の部分)の如く、東三番丁通りと原告所有地内に新に設けられる道路との角地を原告に、その南側を訴外後藤庄之助に、南町通りと東三番丁通りとの角地を訴外磯目茂に対し、何れも矩形に換地予定地の指定をするのが当然で、これを避けるべき何等の合理的理由もないのに拘らず、訴外後藤の策動により同人の便宜を計るため原告に対し前記のような指定をしたのであつて右は特別都市計画法により準用される耕地整理法第三十条の規定に反し、違法であるから取消さるべきであると陳述し、
被告主張の事実中原告所有の従前の土地の一部が被告主張の如く都市計画道路敷地に充てられることゝなり、その北側残地は青葉通りの開設に伴い、訴外青木清所有地の換地予定地に指定され、その南側残地は被告主張のような細長い帯状となり、それのみでは宅地としての効用を失うに至つたこと、訴外後藤庄之助の所有地内に被告主張のような建物及び機械が、又訴外磯目茂所有地内に被告主張のような印刷工場その他の建物がそれぞれ存在し、原告主張の前記換地案を実行に移すとすれば之等の建物機械を移転若くは除却しなければならないこと、以上の事実はこれを認めるが、その余の事実は否認する。
仮に被告の主張するように訴外後藤庄之助に対し原告主張の箇所を換地予定地として指定することにより建物その他の移転補償金として金十二万三千円を要するとしても、原告は被告に対し、事前に右費用を原告において負担するも異議ない旨を申出てあるばかりでなく、右費用を要するの故を以て、原告に対し本件の如き換地予定地の指定を為したものとすれば、原告に不利益な換地を強いる犠牲において被告の当然負担すべき費用を回避するものというの外はないと述べた(立証省略)。
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張の事実中原告がその主張の宅地を所有し被告がこれに対し原告主張の如く換地予定地を指定し、その通知をしたこと、右原告所有地の南北に原告主張のような配列により原告主張の訴外人等の所有地が存すること、これ等の土地及び原告の所有地に対する換地予定地の配列、形状が原告主張の如くであることは認めるが、その余の事実は否認する。
被告が本件の如く換地予定地を指定したのは次のような事情によるものである。即ち原告所有地の略中央部は仙台市特別都市計画による新設道路に敷地に充てられることゝなりそのため右土地は南北に分断されることゝなり、更に別紙図面表示の同都市計画による青葉通りの開設に伴い、これより南に在る電気磁気研究所、青木清の各所有地に対し順次少しずつ南に寄せて換地予定地を割当てることゝなつた結果原告所有地を横断する新設道路敷北側の残地は訴外青木清所有地に対する換地予定地の一部に指定し、又右道路敷南側の残地は西端の東三番丁通りに面する間口が三間、反対側の東端においては僅かに〇、五間という細長い不整形の帯状を成すに至り、これのみでは宅地としての効用を失うに至つたが、さて右残地を何人の所有地に対する換地予定地たらしめるかについては、若し従前の土地の配列のみに捉われてこれを訴外後藤庄之助所有の土地の一部と共に原告所有地に対する換地予定地として割当てるときは、右訴外人の所有地上には建物三棟及び製材機械が在るので、その移転補償だけでも金十二万三千円を必要とするに反し、むしろこれを右訴外人所有地の換地予定地の一部として指定するときは右補償金を節約し得るのみでなく、もともと原告所有地はその西方のみにおいて東三番丁通りに面し他は公路に面することがなかつたのであるから必ずしも前記新設道路と東三番丁通りとの街角を指定しなくとも不当とはいえないし、原告の従前の土地が東三番丁通りに面する間口が十間に過ぎなかつたのに本件の如く換地予定地を指定することによりこれを二十一間に増加し、然も繁華街である南町通りに一段と接近することゝなり、結果においてむしろ宅地としての価値を増すことゝなることを考慮し原告所有地に対し前記の如く換地予定地を指定した次第であるから右指定は毫も特別都市計画法により準用される耕地整理法第三十条に違反するものではない。
原告は前記新設道路と東三番丁通りの街角を原告に、その南側を訴外後藤庄之助に、東三番丁通りと南町通りの街角を訴外磯目茂に何れも矩形に別紙図面表示(黄色部分)の如く換地予定地を割当てるべきであるというけれども、これを実行に移すためには前記の如くすでに多大の補償の下に原告の換地予定地たるべき地内に在る訴外後藤の建物及び機械を移転しなければならないのみならず、更に右訴外人の換地予定地たるべき訴外磯目茂所有地の一部には印刷工場が存し、右工場内には地下一メートルに達する堅固に築造された基礎に取付けられた多数の印刷機械が存しこれ等のものを移転若くは除却しなければならず、そしてこの工場を原告の案による訴外磯目に対する換地予定地内に移転するためには同所に現存する右工場の一部建坪十七坪、住宅一棟建坪九坪、訴外川島某の工場一棟の中約十二坪を除却せざるを得ず、而してこれに要する補償の額は右印刷工場除却の場合は金四十万六百八十五円を要し、又原告案による磯目に対する換地予定地内に曳去移転の方法によるも之がため除却を要する前記建物に対する補償を含む金三十一万九千五百八十円を要し然も右金額は便宜移転若くは除却工事期間中の休業による補償を含まない金額についてこれを見たのであるが、右換地を実行するためには右工事に因る休業補償をもしなければならないことは必然で右工事期間は概ね二箇月を要するものと考えられるところ、この間の休業補償の額についてはその基準となるべき同工場の営業申告が赤字経営になつている現状なので、いまにわかにこれを算出することは困難であるけれども従業員約四十名を擁する同工場に対する右補償は蓋し尠からざる額に達することは明かであつて叙上の如く多大の費用を要するが如き換地予定地の指定は事実上到底これを為し得るところではないと述べた(立証省略)。
三、理 由
原告が仙台市東三番丁三十三番地の一宅地三百二十五坪八合五勺を所有し被告が原告主張の日時原告に対し仙台市特別都市計画による土地区画整理のため右土地に対する換地予定地として原告主張の箇所を指定する旨通知をしたことは当事者間に争がない。
よつて被告の為した換地予定地指定処分の適否について検討する。
土地区画整理施行前の本件係争地附近の状況として東三番丁通りに面し、これと南町通りとの街角にある訴外磯目茂の所有地から北方に順次後藤庄之助、原告、青木清、電気磁気研究所各所有宅地が存在すること、右区画整理の施行により別紙図面表示の箇所に新に青葉通りが設けられ又原告所有地の略中央部を東西に横断する道路が新設されることになり、右青葉通り以南の前記土地所有者中原告以外の他の所有者に対しては概ね現地換地若くは従前の土地の位置に準じて換地予定地が指定され、原告所有地のうち前記新設道路北側の残地は青木清に対する換地予定地の一部となつたが、原告と訴外後藤庄之助との換地予定地は両者の従前の土地の配置と逆転し前記新設道路南側残地は後藤の所有地の一部と共に同人の所有地に対する換地予定地となり、原告の所有地に対する換地予定地は従前の土地の位置から全く離れて右後藤の換地予定地の南隣に位し、且つ従前の土地が東西に長い矩形であつたが右換地予定地は別紙図面に示す如く鍵型の土地を指定されたことは当事者間に争がない。
而して凡そ換地予定地を指定するに当つては若しできることなら区画内の土地所有者に対し従前の土地の位置にこれを指定することが特別の場合を除いて最も過不足なく土地所有者の希望に副う所以であるといえるであろう。本件においても原告が前記新設道路南側残地を中核としてこれに南接する後藤庄之助所有地の一部を併せて同所に換地を望むものであることはその主張に徴し明かなところである。
然しながら都市計画事業においては限られた土地の一部を割いて或は新に道路を設け若くは既設の道路を拡張し或は広場、緑地帯を新設する等総体としての私有地の減少を招来するような工事が施行されることのあるのは顕著な事実で、右私有地の減少は区域内の土地所有者全般に対し公平に分担させなければならないのであるから場合によつては従前の土地の位置を確保するということは到底望むべくもない事態を生ずることのあるのは極めて睹易い道理であつてされば特別都市計画法が準用する耕地整理法第三十条において従前の土地の地目、地積、等位等を標準として均衡を得られるような換地の交付を為せば足りることゝしているのであるから右の準則に遵つて換地の交付を為すにおいては従前の土地の位置と異るところを交付しても之を以て違法であるとはいゝえないわけである。(換地予定地の指定もその本質上右と同様である)。
いま被告が本件のような位置に原告所有地の換地予定地を指定した経過について考えて見るに、証人佐藤芳太郎の証言に検証の結果を綜合すると、原告所有の従前の土地は東三番丁通りに面する間口が十間で奥行三十二間三分の東西に長い矩形を成しているが東三番丁通りに面する部分において略々その中央部から反対の東側においては南方隣地との殆ど経界近くまでに亘り前記新設道路敷地に充てられ右道路北側の残地は(電気磁気研究所訴外青木清に対し、青葉通りの開設に伴いこれより順次南に寄せて換地予定地を割当てざるを得ない結果)訴外青木清の所有地に対する換地予定地の一部に充てられ、又該道路南側残地は幅の狭い不整形の帯状となり、この残地を基本にして原告所有地に対する換地予定地を指定しようとするときは、その大半は南隣の後藤庄之助の所有地に亘らざるを得ず、斯くするときは後藤の地上に在る木造平屋建事務所一棟、木造バラツク建製材工場一棟、木造平屋建居宅一棟合計三棟の建物を他に移転させなければならないのに反して、被告の為した本件換地予定地指定の如く右新設道路沿いの部分を訴外後藤庄之助所有の土地に対する換地予定地とするときは前記三棟の建物中居宅一棟のみを移転すれば足り、補償費の節約に役立つこと及び後記認定の如く原告所有地に対し本件のように指定することにより、むしろ従前の土地よりも価値を増大すること等を考慮し、前記の位置を指定したものであることが認められ、右認定を覆し被告が専ら訴外後藤の便宜を計らうため本件の如き換地予定地の指定を為したと認むべき証左はない。
又原告の従前の土地が前記のように矩形を成していたのに本件換地予定地は鍵型に指定されたのであるからそのことだけを取上げてみると後者の形状が前者の形状に比べて使用目的如何によつては多少の不便を来す難点のあるを免れないことは容易にこれを窺い得るところであるけれども証人小林照清の証言(後記措信しない部分を除く)に検証の結果を綜合すれば原告は従前の土地において管工業を営み同所に倉庫を設け、空地は資材置場として利用しており将来換地予定地内に倉庫車庫等を建設して右事業を継続する計画であることを認められるが右のような計画を実現するため本件の換地予定地がとりわけ不便であることについてはこれに副う証人小林照清の証言部分は信用できないし、他にこれを認むべき証左がない。のみならず成立に争のない乙第一号証の一、二及び同第二号証に証人関山幸作、磯目茂の各証言並に検証の結果を綜合すると、原告及び訴外後藤庄之助に割当てられた換地予定地の地積を前記新設道路の南方に何れも矩形にして割当てるときは訴外磯目茂所有の東三番丁三十一番地に存する印刷工場の一部建坪約五十二坪五合の部分に亘らざるを得ないからこれを移転若くは除却しなければならないところ、仮にこれを磯目茂所有地の換地として割当られるべき地内に曳き移して収容しようとするには、更に右工場の一部建坪約十七坪、住居一棟約九坪、訴外川島某の占有するボール函工場一棟の一部約十二坪の除却を余儀なくされ、これに要する補償は一応休業補償を除外してもなお金三十一万九千五百八十円を要し、又右工場を全く他に移転するため除却という方法をとるとすればこれ亦休業補償を除いてもなお金四十万六百八十五円を要し、これ等工事のためには少くも約二箇月の間操業の休止を余儀されるところから工員約四十名を擁し月間約百五十万円の利益を挙げている(乙第二号証中これと異る部分は信用しない)同工場に対する休業補償の額も相当の額に達すること、以上のような事情に鑑み右印刷工場の在る位置をその儘訴外磯目茂の土地に対する換地予定地とし原告に対しては鍵型に指定せざるを得なかつたものであることが認められる。
いうまでもなく都市計画事業と雖も一定の予算の下にこれを施行するものであるから費用の面を全く度外視した換地処分の如きは事実上これを期待し得るものではなく、費用節約の見地から次善の方策を考慮することはこれを是認せらるべく、これを以て一概に原告のいうように本来被告の負担に帰すべき費用を原告の犠牲において回避するものとして非難さるべきではない。
加うるに鑑定人畠山正の鑑定の結果によると原告所有の従前の土地が公道に接する唯一の部分たる東三番丁通り面の間口が十間に過ぎなかつたのが本件換地予定地におけるそれは二十一間に増し仙台市内枢要の街路である南町通り(このことは当裁判所に顕著である)に一段と接近(従前の土地の南端から南町通りまで約三一、五間)前記鑑定人作成の鑑定書添附図参照―同図は縮尺六百分の一で図上距離一分を以て実距離一間を表示したものであるがその図上距離は約三寸一分五厘であるから上記の距離に相当するものと認める(換地予定地の南端から南町通りまで五間)することゝなり宅地としての効用を一層増加こそすれ決して従前の土地の等位に劣るものでないことが認められ、他にこの認定を妨げる証拠がない。
以上の認定事実によれば被告の為した本件換地予定地の指定は何等特別都市計画法により準用される耕地整理法第三十条に反するものではないといわねばならない。
原告は別紙図面表示(黄色部分)の如くその所有の従前の土地に新に設けられる道路の南に接して原告に、その南方を訴外後藤庄之助に、次いで磯目茂にそれぞれ矩形に換地予定地を指定するのが当然の措置であると主張し、成立に争のない甲第三号証によれば原告は事前に被告に対しこれを実施するため必要な訴外後藤庄之助所有の建物移転の費用は原告において負担するも異議ない旨申出たことが認められるけれども前に認定したように右のような換地予定地の指定を実行に移すためには訴外後藤庄之助所有の前記三棟の建物のみでなく、莫大な補償の下に右訴外人の換地予定地となるべき部分において訴外磯目茂所有の前記印刷工場等の移転若くは除却を余儀なくせられ、徒らにその波及するところを大ならしめるばかりでなくすでに前段で認定したように原告に対する換地予定地が従前の土地の等位に劣るところがない以上仮に原告に対する換地予定地と訴外後藤庄之助所有地に対する換地予定地との比較において多少の優劣の差があつたとしてもこの一事を以てしては原告に対する換地予定地の指定が違法であるとはいえない。
故に被告の為した右換地予定地指定処分を以て違法であるとしてその取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却を免れない。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する次第である。
(裁判官 松尾巖 飯沢源助 伊藤和男)
図<省略>